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ミソノピアの風に漂いながら

  • kaminn1117
  • 9月24日
  • 読了時間: 3分



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ショートショート


「温泉宿珍騒動」

  


いつも暗くて堅苦しい話ばかりなので、

今回はお笑いを少々・・・


           kaminn(入居者)




きようは日曜でも旅館は平日扱いなのでお値打ち料金だ。

あまりは遠出のできぬ事情もあいまって近郊の名泉へ一泊旅行をした。

旅館はトップクラスの老舗であり、昭和天皇、平成天皇がお泊まりになられ、古くは原節子(ご存知か?)にはじまって、あまたの有名人の写真が掲げてある。


夕時の大浴場は人っ子一人もいぬ貸し切りだった。

旬の素材を生かした伝統料理を賞味し、テレビで「欽ちゃんの仮装大賞」を観ているうちに寝てしまった。


夜が明けるのを待てずの朝風呂は、昨晩の男と女の大浴場を入れ替えての趣向が凝らしてある。今朝の風呂はもともとは男子用にあつらえてあったか、湯船がかなり深い。

だれもいぬことを幸いに、ひと泳ぎしてみたが体力は思ったほど衰えてはおらず、ほくそ笑(え)む。




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露天の風呂に移って仰ぎ見る天は、すこしばかり白みはじめてもいた。

そんな空を眺めていたら昔したためた稚拙な節が脳裡に浮かんでくる。


  見あげる朝まだきのなか まだ無限に深まる空のあわいに

  蒼穹(あお)をあつめ 純白にかがやく星がひとつ屹然と浮かびあがっていた



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さて露天風呂より大浴場に戻ってみると、なんと湯船のなかにえもいえぬ美女が浸かっているではないか。はて、戻った場所が女風呂かと思ったが、そうではあるまい、ここはしかと最前自分が泳いだ湯船にちがいないからだ。


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宿の立地がいくら山中といえ、いまの世に狸や狐が化けたとも思えぬが、いっそ湯船に潜って尻尾を確かめようにも、相手がこのような美女では気がひける。

するうち美女が、私においでおいでと手招きをするではないか。


照れ隠し全部の私の、ああでもある、こうでもある、と他愛もない世間話をずいぶんと相手をしてくれた美女に、大浴場ならぬ大欲情を抑えつつ、で、あなた様はどこからおいでで?……とお顔を見るに、そこにはいい歳こいた爺さまが、外した入れ歯を湯船に付けて、ごしごし磨いておられるでないか。




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それにしても、やっぱり化かされたかと思っていたら、爺さまの手から入れ歯が滑り落ちて、私の顔面に湯しぶきならぬ入れ歯しぶきが降りかかった。


あわてて湯船から飛び出した私は急いで浴衣を着込み部屋に向かう。






それが泊まった部屋は、別館のまた離れで大浴場からかなりの距離がある。

廊下を迷いつつ行ったり来たりで疲れ果て、行き倒れそうになるのを必死に堪えながら、腰弁当一つ付けてこなかったことを悔やみもする。


やっとの思いで部屋にたどり着くと、うたた寝をしていた細君が私の顔を見るなり「あ~いやだ。夢見が悪かったわ」と血走った眼をしている。


訊くに、夢のなかで細君と食事中の私がとなりのテーブルの女性ばかり気にしている素振りに、腹を立てた細君が私の顔に湯飲み茶碗のお茶をぶっかけたそうな。

ああ・・・そういえば最前の入れ歯しぶきの爺さまは細君のテレパシーであったのか。




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やれやれ、私は結婚当初の華奢(きゃしゃ)な姿とは様変わりにブヨブヨに太った妻を眺めながら、こんな姿でも「細君」とはこれいかに、と自問しつつ、とみに怪奇の滴りだした細君のお尻のあたりから、ド太い尻尾が生え出していないかと探りを入れはじめていた。

 
 
 

2件のコメント


hiroik
9月24日

お風呂だけに・・・カタカナの「珍」でなくて・・・ほっ"(-""-)"


ほほえましいような、こわいような、でも、やっぱり、ほっこりする話


やはり、「いっしょだから、それでいい」


「湯にーく」(ユニーク)な話で肩まで温まりました(o^―^o)ニコ


 

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諒 牧村
諒 牧村
9月24日
返信先

さすがに上手い! 「座布団100枚」(^_^)v


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