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ミソノピアの風に漂いながら

  • kaminn1117
  • 2025年12月28日
  • 読了時間: 3分

更新日:2025年12月30日




ラスト

エッセイ


あけがたにくる人よ


kaminn




ずっと捜(さが)していた。

それこそ長い年月捜していた「詩」が出てきた。詩の一部の「とても印象的な」フレーズの記憶を頼りにネット検索していたがなかなか見つからなかった。

それがパソコンのファイルの片隅に眠っていたのを偶々見つけたのだ。


その詩「あけがたにくる人よ」は主婦・家庭裁判所調停委員・農業を掛け持ちながら詩人を貫きとおした永瀬清子(1906年-1995年)が81歳のとき発表した詩で、人生の終末にしか書くことの出来ないほど深く、なによりも若さを失わない瑞々(みずみず)しい詩に私は驚かされていたのだ。





あけがたにくる人よ 永瀬清子

   

   あけがたにくる人よ

   ててっぽっぽうの声のする方から

   私の所へしずかにしずかにくる人よ

   一生の山坂は蒼くたとえようもなくきびしく

   わたしはいま老いてしまって

   ほかの年よりと同じに

   若かった日のことを千万遍恋うている


   その時私は家出しようとして

   小さなバスケット一つをさげて

   足は宙にふるえていた

   どこへいくとも自分でわからず

   恋している自分の心だけがたよりで

   若さ、それは苦しさだった


   その時あなたが来てくれればよかったのに

   その時あなたは来てくれなかった

   どんなに待っているか

   道べりの柳の木に云えばよかったのか

   吹く風の小さな渦に頼めばよかったのか


   あなたの耳はあまりに遠く

   茜色の向うで汽車が汽笛をあげるように

   通りすぎていってしまった


   もう過ぎてしまった

   いま来てもつぐなえぬ

   一生は過ぎてしまったのに

   あけがたにくる人よ

   ててっぽっぽうの声のする方から

   私の方へしずかにしずかにくる人よ

   足音もなくて何しにくる人よ

   涙流させにだけくる人よ



詩のなかの印象的な言葉「ててっぽっぽう」は、山鳩の鳴き声のことである。

「あけがたにくる人」は若き日の恋人にちがいないが、この詩をくり返し読むうちに、

あけがたにくる人とはこの「詩」そのものであり、作者自身の老いであり、想い出であり、そしてあしたへの悦であるのかもしれない。

つまり「あけがたにくる人」とはなにかは、この詩を読む人それぞれの数だけあるのだ。


私はこの「詩」に気づかされた。

おのれの老いを知ることはいいとしても、老いに流されてはいけないと。

私はうっすらと明けはじめた「師走」の空を見たくなり、いつものようにベランダに出た。


























そして想う。

私にとっての「あけがたにくる人」とは。

そこには朝焼けがあり、空の深さがあり、さまざまなカタチの雲があり、鳥たちが空に遊ぶ姿があり、なによりもあした(未来)に続くいま(現在)があり、そして新しい出逢いが待っているのだ。


さらに想う。

見上げる美しい空の向こうは無窮の暗闇が広がっているが、そこはこの世から飛び立った魂たちがつぎのイノチの星へ旅立つためのユートピアにちがいないと。


あと数日で「新春」がやってくる。

世界も時代も悪い方向に急加速しているけれど、それは若い力に委ねるしかない。

そして新しい春は私にとっての「あけがたにくる人」を連れてやってくるのだ。






※ミソノピアに入居ではじめた私の稚拙な「エッセイ」はこれにて一旦幕を閉じることとします。

擱筆となるか休筆にとどまるかは自身でさえ分かりかねますが、拙稿掲載の場を提供していただいた施設側と読んでいただいた方々に厚く感謝申し上げます。








2件のコメント


hiroik
2025年12月28日

『ミソノピアの風に漂いながら』の一番のファンであります


エッセイの中で ~早朝の散策時に「庭園の金魚」を褒めて下さった~ こと、

今でも覚えています


そして、“宇宙の偉大さ” “命” そして “人生の誕生から終わり” など

文章を読みながら、考えることばかりです


なによりも、“芸術の魅力”を学べることに感謝しております


そして・・・エッセイとして、ふたたび復活されること


『 春はあけぼの 』の日を待ち望んでいます


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諒 牧村
諒 牧村
2025年12月28日
返信先

最高の愛読者から身に余るお言葉をいつも心に刻んでいます。 もっと普遍性に富んだ内容にしなければと考えつつも 手前味噌な記述ばかりで反省しています。 暫くは充電期間と甘えさせていただき、再挑戦への老いとの戦いが待っています。 すべてに感謝です。

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